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ミュージアムにおける学びとリテラシーについて
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名前:
HIRANO Tomoki
職業:
大学院生
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岸田恵理
『美術教育学 : 大学美術教科教育研究会報告』(16) pp.101-110 1995年

信濃美術館におけるギャラリートークのあり方について、イギリスの美学者ハロルド・オズボーンの『The Art of Appreciation』(1970)に基づきながら考えていく。オズボーンは芸術鑑賞を「理論的な知識の類ではなく、感情の放縦でもなく、獲得されうる技能である」としている。この論ではオズボーンの言葉を引きながら、作品「紅浅間有明月」を例に、どのようにギャラリートークで作品を語り、観者に伝えるべきか:芸術鑑賞における言葉の役割をケーススタディ的に考察している。
鑑賞を「獲得されうる技能」としたオズボーンの考え方は面白い。ただ、それがギャラリートークの語りでどのように実現されるべきかは、難しいところである。

芸術鑑賞への導入において、作品を分析することも、歴史的背景について語ることも有効であった。しかし鑑賞それ自体は、分析や知識の獲得とは別次元のものであり、美的感性的に作品の統一的な質を知覚することである。pp.109
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合原祐美 上野淳 倉斗綾子
『学術講演梗概集. E-1, 建築計画I, 各種建物・地域施設, 設計方法, 構法計画, 人間工学, 計画基礎』1999 pp.65-66 1999年

東京都現代美術館において、複数の展示と付加空間(喫茶、ショップなど)への入室・退室時間と展示空間内での鑑賞軌跡・鑑賞行為について、来館者調査を行った研究。美術館の利用の仕方は多様であり、作品の属性、内容、他者が介在する複雑なものであることがわかった。
美術館の鑑賞行動を展示室内に限らなかったところがこの研究のオリジナルであるといえるだろうか。美術館への来館は複雑で多様、というのは分かりきったことであるが、そこから何ができるか、である。

美術館における来館者の行動は実に多様で、美術品の鑑賞だけでなく、付加空間での行動や体験等も重要であることが分かった。また、展示空間内での行動は、属性、作品の内容、他者の介在が影響しており、鑑賞行動、気づきの行動、迷いの行動、の連続で成り立っていることが分かった。pp.66
井上征矢 穂積穀重 玉川信一ほか
『感性工学研究論文集』5(2) pp.17~24 2005年

美術作品の鑑賞構造を探るため、筑波大学大学院修士課程芸術研究科終了作品展を利用して、来館者を対象にアンケートを実施し分析を行った来館者研究。専門的な美術教育経験者/未経験者という区分で分析がなされた。
その結果、「美しさ」がもっとも「好感度」に影響しやすく、美術教育経験者では「面白さ」、未経験者では「テーマの伝わり易さ」「技術的な難しさ」も「好感度」に影響することがわかった。また、作品の注目箇所としては経験者はディテールを見ており、未経験者は顔など分かりやすいところを見ていた。ほかにも、アンケートの自由記述欄の充実度なども違った。
美術教育経験はたしかに鑑賞を規定するひとつの要素だと思うが、美術館来館者の中にこのような経験を持っている人は多くない。鑑賞構造がこれだけに規定されるわけではないはずで、それ以外の部分をうまく取り出せると良いのだが。
奥村高明
『美術教育学:大学美術教科教育研究会報告』(26) pp.151-163 2005年

状況的学習論を手がかりに、宮崎県立美術館において子どもの鑑賞行動をビデオに録画し、それを観察した来館者研究。「よどみ」や「しかけ」がキーワードになっている。「よどみ」とは、作品の前に子どもたちの人だかりができる様子で、そこで対話が生まれる。「しかけ」とは作品の鑑賞のためのツールだが、子どもたちは必ずしもそれだけを見ていない。監視員、学芸員、ほかの来館者、「しかけ」、そして作品が等価なものとして相互作用して、鑑賞が生まれる。
鑑賞という行為がさまざまな状況に依存して起こるということが示されている。つまり、美術館で起こっているのは、来館者と作品との二項対立のようなものではないのである。来館者の周りにあるものすべてが、鑑賞資源であるといえる。

この研究は雑誌記事として

宮崎県立美術館/ユニークな鑑賞研究-作品も観客も仕掛けも、すべてが等しい教育資源
『ミュージアム・マガジン・ドーム』79 pp.30~33 2005年

にも紹介されている。
川嶋-ベルトラン敦子
『博物館学雑誌』25(2) pp.33-49 2000年

ピアジェの発達段階説にヒントを得たマイケル・パーソンズによる「美的感受性発達論」について、フランスの美術館における来館者研究を行いその有効性と限界を確かめようとする。パーソンズは、美術作品の「主題」「表現」「媒体・フォルム・形式」「判断」に関してできることが、第1段階~第5段階と発達段階を追っていくことで積層的に付け加わっていくとする。
その結果、発話の定性的な評価の曖昧性や、評定基準外の発話の存在などが問題として挙げられた。作品から想起された個人的体験や、美術館独自の環境に対する発話などである。美的感受性発達論では「もれてしまう部分」が、ミュージアム特殊な何かである、ということはできないか。

この第2点目の美術館独自の環境にかかわる発話は、当然、この評定表からはもれてしまうのだが、この評定表は、美術館における観客の体験の一部しか考察し得ず、美術館においてはもっと様々な観点から総合的に判断できる評定表が必要であることを示唆していると言える。pp.46
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