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ミュージアムにおける学びとリテラシーについて
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名前:
HIRANO Tomoki
職業:
大学院生
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開仁志 長谷川総一郎
『富山大学教育実践総合センター紀要』5 pp.69-80 2004年

富山大学付属幼稚園の幼児を対象に、水墨美術館の見学に際してワークシートを作成し、その成果を見た調査研究。ギャラリートークなどのインタラクティブな手法と違ってワークシートは1人学習の素材であり、いったん作成してしまえば教師も子どもも自由にできるという点で、日本の教育風土に合っているという。結果、幼児はワークシートに高い反応を示し、彼らの鑑賞の補助となっていることが確認され、今後は幼稚園と美術館、大学の連携が必要であることが示唆された。
幼稚園でワークシートというのは早すぎる気もするが(実際のところ保護者のワークシート作成援助が重要なポイントである)、美術館の初心者に対して美術に触れるきっかけをつくったという意味では、たしかにワークシートが機能したと言うことができるだろう。設問は「数を数える」「クイズに答える」「吹き出しの中身を埋める」「好きな絵を見つける」など。

美術館のワークシートは鑑賞を支援するツールに過ぎない。したがって鑑賞に慣れた人には不要となる。しかし、作品は「見る人の感性が重要なので言葉は不要」という美術館関係者でも作品については膨大な文章表現に依存している。言葉は幼児にとっても人間のコミュニケーションの重要な媒体である。ワークシートは両刃の剣であることを承知の上で、作成や使用すれば、ビギナー向けの鑑賞にはこんな便利なツールは他に無い。pp.70
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高野智
『日本科学教育学会年会論文集』29 pp. 343-344 2005年

日本モンキーセンターの研究員である筆者が、博物館のバックヤードで行われている研究の教育現場への活用の可能性を語る。現状では、博物館は教育現場のニーズを知らず、教育現場は博物館のバックヤードの存在を知らないという相互の無理解があるが、研修会などを通じて博物館のバックヤードの魅力を知ってもらい、バックヤードの教育現場への活用を進めようとしているという。
語られることはもっともであるし、理解もできるが、具体的なプランがまだないので、何も言うことができない。日の目を見ることが少ない研究部門の、現場の声のひとつということになるだろうか。ここでは“本物の資料の力”しか語られていないが、それを超えて“表側”と“裏側”という博物館の仕組みの理解に至れば面白い実践になるかもしれない。

Doris Ash
Leinhardt, Crowley, & Knutson (Eds.),Learning Conversations in Museums (pp. 357-400) Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum Associates 2002年

自然史系博物館(カリフォルニア科学アカデミー)の展示において、親子が生物学的なテーマについて語り、学んでいく様子を、ヴィゴツキーの最近接発達領域の考え方を理論的基礎にして分析を行っている。分析のユニットにはSignificant Event(SE)を用い、以下の4パートの機能分析枠組みを使用して、それぞれのケースを詳細に見ていく。

1.生物学的テーマ
2.調査スキル(観察、質問、解釈など)
3.先見性(Demand, Give Acknowledgement)
4.発話の機能

ここでは2つの家族のSEが考察されるが、どちらの家族も子どもの会話をうまくコントロールし、支援するなど“ミュージアムする”(Do Museums)やり方を心得ていたという。“ミュージアムする”とは、ミュージアムにおいてどのように展示と接し、振る舞えばよいか分かっているということだろう。今回の分析では厳密には分からなかったが、“ミュージアムする”やり方が実はあり、それをこのSE分析からうまく取り出すことができれば面白いかもしれない。
Takumitsu Agata, Takeshi Okada
CogSci2006 Poster Session 2006年

美術作品の制作プロセスを見せる展示を行うことで、来館者の作品や作家に対する解釈への影響を見る。名古屋大学博物館において、現代美術作家小川信治の作品とその制作プロセスを展示した展覧会「Conversation Piece」において、13組の有志の学生たちに展示を見てもらい、作品や作家に対する印象などを、質問紙によるプレテストとポストテストで計る。また展示室内での会話は録音され、書き起こされて分析に用いる。
その結果、プロセスの展示を見ることで、来館者は彼/彼女の美的経験を損ねることなく、作家や作品に対する考え方(制作技法やスタイル、作品に描かれる世界などについて)がポジティブな方向に変わることが分かった。
結果は良く考えれば当たり前のことのような気はするが、それを認知心理学的なやり方できちんと実証した研究。プロセスを見ることで、来館者はそのままではわかりにくい作品や作家と自分とのつながりを見いだすことができたのである。
竹内有理
『歴史地理教育』695 pp. 22-29 2006年

来館者の博物館での学習とその評価について、「包括的学習成果(Generic Learning Outcomes)」というイギリスの基準を用いて考える。これは、

1.知識と理解
2.技術
3.姿勢と価値観
4.楽しさ・触発・創造力
5.行動・態度・進歩

の5つからなるミュージアム学習の明確な基準である。「1.知識」の中には「博物館/文書館/図書館の機能について学ぶ」、「2.技術」の中には「知的技術(読解、批判的思考など)」や「情報管理技術(情報の使い方、評価)」などが含まれており、「3.姿勢と価値観」には「組織に対する姿勢(博物館、図書館など)」があるなど、詳細な規定の中に、単なる知識の獲得だけではない、ミュージアム・リテラシー的な考え方も含まれている。ミュージアムにおける学習は、それだけ複雑で多層的なものなのだろう。
この小論は、長崎歴史文化博物館に寄せられた来館者からの意見を、「包括的学習成果」の基準で評価してみる試みであった。意見がどのように収集されたのか、それがどのようにコーディングされたのかといった調査の手続きについての記述は全くない。つまりこれは本格的な調査研究ではなかったわけだが、「包括的学習成果」は、ひとつの質的な評価の方法論として見るに値すると思う。
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