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ミュージアムにおける学びとリテラシーについて
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名前:
HIRANO Tomoki
職業:
大学院生
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Falk, J. 
Environmental Education Research. 11(3) pp.265-280 2005年

ミュージアムその他の環境で行われる学びを、学校などで行われるFormal learningに対するInformal learningとして捉えるやり方に代えて、Free-choice learning(自由選択学習)という考え方の有用性を提唱する。そこでは環境が学習のファシリテーターとして重要な役割を果たしており、その意味で自由選択学習は環境の学習であるということができる。また、そのような学習は単純なものではなく、複雑な社会的文脈の中で生起するものである。
インフォーマルとフォーマルという学習の分類の仕方には不自然さを感じていたのもあり、自由選択学習の概念がインフォーマルに代わるものになりうるという議論は説得的である。また、それが環境により規定されるという点も面白い。自由選択学習は環境の学習(ミュージアムのリテラシーの獲得)でもあると言うことができるだろう。
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MacDonald, S. Silverstone, R.
Cultural Studies. 4(2) pp.176-191 1990年

イギリスのメディア研究者ロジャー・シルバーストーンによる、ミュージアムというフィクションの構造変化をロンドン科学博物館の常設展というテクストから読み解いた論考。彼によれば「ミュージアム」という概念は歴史的に構成されたフィクションである。そしてそれは、単に分類学にもとづいて視覚的に展示を構成する方向から、全体として物語を語る方向へと変わってきているという。
ミュージアムの展示をテクストとし、それに関してカルチュラル・スタディーズ的な分析を行っている。ミュージアムに関してメディアやコミュニケーションの観点から研究を行っている人物としては、フーパー=グリーンヒルと彼が代表的だろう。知見自体はそんなに目新しいものではないのだが、カルチュラル・スタディーズという立ち位置からのミュージアムの記述の仕方として、参照できる。
Housen, A.
ILVS Review: A Journal of Visitor Behavior. 2(2), pp.213-237 1992年

アビゲイル・ハウゼンによる美的感受性の発達に関するフレームワークの、ミュージアムにおける適用。小学校の2年生と4年生に対してミュージアムエデュケーションのプログラムを行い、その後Aesthetic Development Interview(ADI)という手法を用いてその効果を測定している。ADIは美術作品を見て思ったことを語ってもらうという手法である。この手法は小学校低学年から可能であり、あらゆる発話をコーディング可能であることから、初心者へのミュージアムエデュケーションの効果の検証のためにも有効であることが示唆された。
パーソンズと同様、ハウゼンも美的感受性の発達を一定の段階(ここでは五段階)を踏んで進歩していくものであるとしており、そのための分析フレームワークは明快で分かりやすい。しかし、やはりここでも美術「作品」の鑑賞にポイントが置かれていることは否めない。
吉野孝 奥平耕造 石塚潔 市川誠二郎
『学術講演梗概集. E-1, 建築計画I, 各種建物・地域施設, 設計方法, 構法計画, 人間工学, 計画基礎』Vol.1995 pp.431-432 1995年

10館の公立美術館の学芸員に対して、展示空間の満足度や要望に関するアンケートを行い、学芸員が要望する展示空間の要素を導き出した研究。現状の展示空間に満足している例は見られず、美術館建築は学芸員とともに設計を進めるべきであることが示唆された。
美術館・博物館の展示空間に限らず、学芸員ら専門職員がそのプロセスに入らないことで、エントランスやワークショップスペースなどが非常に使いづらいということは多々ある。公立館はとくに、設置の際に学芸員を置く行政予算がつかないことが多く、学芸員を置く前にハコだけができてしまう場合が多い。
しかし、学芸員が望む要素を一つひとつ見ていくと、きわめてホワイトキューブ的な空間が良いことになるが、ほんとうにこれで良いのだろうか。
A.天井高は現代美術を扱う場合、4m以上必要
B.天井形状は、各設備機能を妨げないよう配慮
C.天井仕上げは、作品を吊れる強度が必要
D.展示をする上で、有効な壁面を増やす
E.釘打ちや補修が容易なことが必要
F.展示作業上、稼動壁の軽量化が望まれる
G.展示効果と作業性から木質系が良い
H.無性格な色が良い
I.展示には、フロアーコンセントは不必要
J.作品に風が当たらない計画をする
K.調高範囲・照明位置の細分化
L.展示室を完全遮光可能にする
M.釘・ワイヤーとも可能な計画とする
高橋徹 益岡あや 深谷拓吾 伊藤禎宣 片桐恭弘
人工知能学会第19回全国大会 2005年

FalkとDierkingの「自由選択学習」(Free-choice Learning)の概念をもとに、これを支援するPDA型の端末とWebサイトの連動による展示ガイドシステムを構築し、京都大学博物館で試験運用・評価を行った開発研究。「観点」別の解説やおすすめ展示の示唆など、個人的文脈、社会文化的文脈、実践的文脈のそれぞれにおいて学習支援が行われ、アンケート分析の結果、多くの人がシステムに対して高評価を下した。
PDAを用いた展示ガイドというのはよくあるものであり、実装されているシステムもほぼ一般的なものだが、背景理論にFalk & Dierkingを持ってきたところがオリジナルであろう。『博物館体験』はきわめて重要な指摘をしているが、実際にそれに基づいた支援を行うことは難しい。この研究はそれに挑んだ意欲的な試みだったと言える。
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