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ミュージアムにおける学びとリテラシーについて
Profile
名前:
HIRANO Tomoki
職業:
大学院生
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水越伸 村田麻里子
『東京大学社会情報学研究所紀要』65 pp. 37-67 2003年

2002年にメルプロジェクトにおいて行われたミュージアムとメディア・リテラシーに関する実践研究。東京都写真美術館を舞台に品川区の中学校との連携型ワークショップを実施し、映像というメディアについて理解するとともに、人々が集まる公共の場としての博物館の機能についても思いをめぐらせる。
ワークショップを通じて子どもたちの変化としては、映像の歴史や多様性への気づき、また映像が人の手によって作られることへの気づきといったメディア・リテラシーへの覚醒のほか、美術館に対する興味の喚起などもみられたという。これは事後のアンケートの結果によるものだが、分析の方法がいまいちよくわからないため、一概にそう言えるとは言い難い。
これは一般的なメディア・リテラシーに関する実践だが、最後には「『メディアとしての博物館』のリテラシー」という言葉で、ミュージアム・リテラシー(彼らはそういう言葉は使っていないが)を育むようなプログラムの必要性が示唆されている。

これからの博物館には、博物館の権威やイデオロギーの仕組み自体を積極的に開示し、人々が博物館をメディアとしてとらえなおすような仕掛けを盛り込んだ実践が必要となってくるのではないか。すなわち「メディアとしての博物館」のリテラシーを学んでもらうのである。pp. 52
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波多野弘之
岡部あおみ編『ミュゼオロジー実践篇-ミュージアムの世界へ』pp. 147-170
武蔵野美術大学出版局 2003年

博物館を情報という文脈から読み解く「博物館情報論」は現在博物館学の必修科目となっている。この小論は、ミュージアム(美術館)を単なる鑑賞の場から、必要に応じて作家や作品の情報を得ることができるツールのある場として位置づけ、ミュージアムが図書館情報学的な役割もはたすべきであるとしている。
また彼は「ミュージアム・リテラシー」という言葉を用いて(彼はここで佐藤(2003)を踏まえてはいない)「美術館を含むミュージアムという装置をよく理解し、その可能性を引き出す力」の確立を説いている。ここでミュージアムは情報の集積地であり、リテラシーを身につけた来館者はミュージアムから受身的に情報を与えられるだけでなく、自ら主体的にさまざまな情報を得ることができるのである。
ここで語られているリテラシーは、図書館情報学の世界から発しているインフォメーション・リテラシーに近い。膨大な情報の中から自らに必要な情報を引き出すことができるのが、賢い来館者なのだ。

杉浦幸子
岡部あおみ編『ミュゼオロジー実践篇-ミュージアムの世界へ』pp. 126-136
武蔵野美術大学出版局 2003年

ミュージアムにおける学びを、〈もの〉〈ひと〉〈場〉という3つの要素から考える。学びとは、ひとが何らかの刺激・情報を受けることであるという。あらゆる場所が学びの環境となりうる。ミュージアムは、人々の学習支援の場所なのである。
彼女は、ミュージアムの学びの特徴を4つの要素にまとめている。

1.視覚による学び
2.年齢を限らない、自由な学び
3.正解を求めない学び
4.自発性な学び

視覚による学びは視聴覚の考え方に、自由で正解を求めない学びはアメリア・アレナスの鑑賞教育の考え方に近いものがある。彼女の出自が美術系であるため、美術館が前提にされているように思えるが、ミュージアムの学びの自由さについては、たしかにその通りであると思う。

上で述べたように、〈もの〉はさまざまな情報を発している。しかし、その情報の解釈は見る側に委ねられている。赤い色を見て「熱い」と感じる人もいれば、「強い」と感じたり、「寂しい」と感じる人もいるだろう。また「りんご」を思い出したり、「夕日」を思い出す人もいるだろう。そうしたそれぞれの解釈や思いに、正解や優劣はない。
つまり、同じ〈もの〉を見ても、1歳の人は1年分の経験で、100歳の人は100年分の経験で、それぞれに解釈することが許されるのである。pp. 130
田邊玲奈 岩崎誠司 亀井修 小川義和 国立科学博物館
『日本科学教育学会年会論文集』29 pp. 13-14 2005年

佐藤(2003)のミュージアム・リテラシーの提案を受けて、博物館を学習資源としてうまく利用することができる力としてのミュージアム・リテラシーの可能性を、国立科学博物館を中心としてさまざまな種類のミュージアムが集まる上野の山において子どもたちに博物館を継続的に利用してもらい、その認識の変化を見ることで明らかにしようとした実践研究。
この異分野連携のプログラム(国立科学博物館、東京国立博物館、国立西洋美術館、東京藝術大学、恩賜上野動物園が参加)により、博物館の持つ機能や館ごとの特徴などについて理解が深まったという。そして、「ただ見るだけの博物館から目的に応じて何度も利用する博物館へ」という意識の変化が見られた。
この研究は、平成17年度科研費補助金・基盤研究「博物館リテラシーを育成するための博物館における総合的な学習プログラムの実践的研究」の一部である。今後の詳細な研究報告を待ちたい。
伊藤博
『日本ミュージアム・マネジメント学会研究紀要』第9号 pp. 49-55 2005年

学校における体験学習として行われる従来の博物館見学では、学習者は博物館での体験を学びへと深化させることができない。著者はその原因を、博物館を訪れる目的が学習者にとってあいまいであるからだとし、適切な事前学習によって博物館体験をより実りある学びへと深化させることを試みている。
この調査は、神戸の公立中学校の1年生が科学系博物館を見学する前に、道徳や特別活動の時間を利用しして「生命」に関する学習を行った。博物館見学の事前と事後に、学習者が博物館をどう捉えているのかについての意識をアンケートとヒアリングにより調べ、その意識の変容を押さえようとした。その結果、事前学習をした生徒は博物館においてより積極的に学習できるようになることがわかった。
実践研究としての位置づけが大きく、対象群との比較なども行っていないため、このプログラムが一般性を持つかどうかは分からないが、明確な目的意識を持って博物館へ行くことの重要性が、この調査から明らかになったといえる。
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