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ミュージアムにおける学びとリテラシーについて
Profile
名前:
HIRANO Tomoki
職業:
大学院生
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Takumitsu Agata, Takeshi Okada
CogSci2006 Poster Session 2006年

美術作品の制作プロセスを見せる展示を行うことで、来館者の作品や作家に対する解釈への影響を見る。名古屋大学博物館において、現代美術作家小川信治の作品とその制作プロセスを展示した展覧会「Conversation Piece」において、13組の有志の学生たちに展示を見てもらい、作品や作家に対する印象などを、質問紙によるプレテストとポストテストで計る。また展示室内での会話は録音され、書き起こされて分析に用いる。
その結果、プロセスの展示を見ることで、来館者は彼/彼女の美的経験を損ねることなく、作家や作品に対する考え方(制作技法やスタイル、作品に描かれる世界などについて)がポジティブな方向に変わることが分かった。
結果は良く考えれば当たり前のことのような気はするが、それを認知心理学的なやり方できちんと実証した研究。プロセスを見ることで、来館者はそのままではわかりにくい作品や作家と自分とのつながりを見いだすことができたのである。
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上野行一監修
淡交社 2001年

アメリア・アレナスの、鑑賞者一人ひとりが主体的に美術をみるやり方を教えるギャラリー・トークを日本で実践したいくつかの美術館と学校の試みを丁寧に描く。二部構成で、第一部ではアレナスの鑑賞教育の特徴を理論的・実践的に裏づけ、第二部ではそれに基づいた、豊田市美術館、川村記念美術館、高知大学付属小学校の実践を報告している。
上野はアレナスのギャラリー・トークの特徴を

受容-観衆の意見を受容する
交流-観衆相互の対話を組織化する
統合-観衆の意見の向上的変容を促す

の三つであるとし、とくに重要な〈受容〉にはさらに、

1.受け入れる
2.観衆の意見から始める
3.良さを見つける
4.ほめる
5.ともに喜び、ともに楽しむ

という要素が関連しているとする。アレナスが特別なのではなく、このような点さえ踏まえれば対話型のギャラリー・トークが実践可能であることを、実例とともに示している実践的な本。このギャラリー・トークを成り立たせているのは感性のようなあいまいなものではなく、いくつかの要素として記述可能なスキルなのである。
森美樹 小川義和 土屋順子 鈴木和博
『日本ミュージアム・マネジメント学会研究紀要』第9号 pp. 77-87 2005年

ミュージアムを考えるときには、ミュージアムの来館者だけでなく、ミュージアムに一度しか来たことがない人、あるいは全く来たことがない人のことを考えに入れる必要がある。この論文は、このような「潜在的利用者」に対して、マーケティング的な戦略をとることで多様なニーズを持つ人々にアプローチする方法を探っている。
この調査はインターネット調査サービスを利用し、登録会員約2000人から回答を得た。まずフェイズ1でオフタイムの過ごし方と科学への興味を尋ね、フェイズ2では国立科学博物館の来館経験と認知度、イメージなどを尋ねた。その結果、かつて来館したが気持ちが遠ざかっている人は、「堅苦しいとか難しいというイメージ」「特に目新しい情報との出会いがない」などの意見が見られた。また、科学博物館に行ったことのない人は、認知的な側面で来館を阻害されている(要するに「情報を知らない」)部分が多くを占めた。これは、博物館の認知を高め、イメージを改善することで利用者になりそうな人が多くいることを示している。
来館の阻害要因という考え方は、潜在的利用者の開拓、博物館における学びの支援にも逆にうまくつながる。

認知的(cognitive)側面での要因:
  存在を知られているかどうか
  広報宣伝は効果的に行き届いているか
情意的(affective)側面での要因:
  興味・関心をひいているか
  好きか、親しみやすいか
能動的(conative)側面での要因:
  行動に結びつきやすいかどうか
  (時間、距離、価格など)pp. 84
湯浅万紀子
『日本科学教育学会年会論文集』28 pp. 551-552 2004年

著者は『博物館体験』に基づき、とくに科学館において、その体験や意味あるアウトカム(成果)は、来館直後だけでなく長期的な調査をしなければ把握できないとして、名古屋市科学館において継続的なアンケート・インタビュー調査を行っている。来館者に過去の科学館の思い出を語ってもらうインタビューでは、10年以上前の体験について詳細に語ることができる人もいたという。このインタビューの結果は「理科が好きになった」「論理的思考方法・観察力の獲得」などのカテゴリに分類された。
また、このような学習効果だけでなく、「館スタッフや異年齢の子ども達とのコミュニケーションによって芽生えた自立心や自信、楽しさや感動、感激を味わったとする充実感、理系に進学しなくても有意義な経験だった」など、意味あるアウトカムが多様にあることも確認された。
調査の詳細は『名古屋市科学館紀要』30 pp.6-17を参照。
竹内有理
『歴史地理教育』695 pp. 22-29 2006年

来館者の博物館での学習とその評価について、「包括的学習成果(Generic Learning Outcomes)」というイギリスの基準を用いて考える。これは、

1.知識と理解
2.技術
3.姿勢と価値観
4.楽しさ・触発・創造力
5.行動・態度・進歩

の5つからなるミュージアム学習の明確な基準である。「1.知識」の中には「博物館/文書館/図書館の機能について学ぶ」、「2.技術」の中には「知的技術(読解、批判的思考など)」や「情報管理技術(情報の使い方、評価)」などが含まれており、「3.姿勢と価値観」には「組織に対する姿勢(博物館、図書館など)」があるなど、詳細な規定の中に、単なる知識の獲得だけではない、ミュージアム・リテラシー的な考え方も含まれている。ミュージアムにおける学習は、それだけ複雑で多層的なものなのだろう。
この小論は、長崎歴史文化博物館に寄せられた来館者からの意見を、「包括的学習成果」の基準で評価してみる試みであった。意見がどのように収集されたのか、それがどのようにコーディングされたのかといった調査の手続きについての記述は全くない。つまりこれは本格的な調査研究ではなかったわけだが、「包括的学習成果」は、ひとつの質的な評価の方法論として見るに値すると思う。
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